前回は、ステンレス網を炙って表面を酸化鉄に変化させた電極を作って実験を行なった。今回は、教育用に市販されている微生物燃料電池キット(MudWatt)でも、電極として使われているグラファイトフェルトを試してみたいと思う。グラファイトとは鉛筆の芯に使われている黒鉛のことで、炭素原子「C」の結晶の一つ。つまり、グラファイトフェルトは、黒鉛化した炭素繊維で作ったフェルトのことだ。
グラファイトフェルト選びで注意したポイントは電気抵抗率。フェルトの抵抗が高いとその分、電圧降下が発生するので、取り出せる電力のロストなるからだ。
ネットで購入できそうなところは、それほど多くはなかったが、購入したのがこちら。PANCF3100100 (Hi-Tech Carbon Co.,Limited)
スペック上は、電気抵抗率は 0.18-0.22 ohm・cmであり、十分小さいと思われる。
炭素含有量については、Carbon content: 97%と記載されていた。似たような他の商品では、炭素含有量が99%とより高いものもあるのだが、その違いによる影響が見えなかったので、まずはこれでやってみようと思う。
ちなみに、商品は、AliExpressで購入し、送料無料でリーズナブルなのは良かったが、中国からの輸入になるので、商品の注文から到着まで三週間以上かかりずいぶん待たされた印象だった。ここで買うときは時間と心のゆとりが必要かもしれない。
では、レッツDIY!
っと、その前に。実は前回までに電極に使っていた細い電線であるが、やはり細すぎて、ちょっと引っ張っただけで切れてしまった。電圧測定の際に、測定値が不安定であったため接触不良を疑い、電線を触っていたら、あっけなく切れてしまったのだ。なので、より太くしっかりとした電線を使用することとした。
また今回、新たにグラファイトフェルトを入手したので、炙ったステンレス網の電極とも比べてみたいと思う。
実験について
アノード(負極)とカソード(正極)に使う電極の組み合わせによって次の3つを比較する。ただ、比較と言っても、あまり計画的に事を進めてこなかったので、実験で使う土を同じ条件にそろえて比較することができなかった。実験をするたびに、土が足りずに、別の土を使ってしまった。なので、今回は、電極によってざっくりどんな実力があるのかを確認したいと思う。
実験No. |
アノード |
カソード |
土 |
1 |
炙ったステンレス網 |
グラファイトフェルト |
プラ船の田んぼの土 |
2 |
グラファイトフェルト |
グラファイトフェルト |
川底のヘドロ |
3 |
炙ったステンレス網 |
炙ったステンレス網 |
田んぼの土 |
アノードにグラファイトフェルト、カソードに炙ったステンレス網という組み合わせもあるが、炙ったステンレス網は電流発生菌を集めやすいというアノード電極向けの意味合いが強いので実験では割愛した。その代り、一番期待をしているNo.1の電極での結果に再現性があるのか見たかったので、No.4の実験として、No.1と同じ電極の組み合わせをもう一つ作ってみることにした。
実験No. |
アノード |
カソード |
土 |
4 |
炙ったステンレス網 |
グラファイトフェルト |
川底のヘドロ |
ちなみに川底のヘドロは、さいたま市の深作川という小川から採取したものだ。上の写真の場所では、農業排水が注ぎ込んでおり、ヘドロが程よく堆積していた。臭いは、はっきり言って臭い。
ゆくゆくは、こうした場所で微生物燃料電池を利用して、ヘドロの分解を促進し、水質浄化に繋げていきたいと思う。
電極作り3〜炙ったステンレス網(改1)〜
材料
- ステンレスの網(アク取り)
- 電線(φ3 x250mm)
- 針金
手順
1. 前回の電極作り2で行った手順と同じだが、電線だけより太い電線に変更する。
2. 針金によって電線をステンレス網に固定する。
以上
電極作り4〜グラファイトフェルト〜
材料
- グラファイトフェルト(3x100x100mm)
- 電線(φ3 x250mm)
手順
1. 導線の被覆を約9cm剥き、中の銅線を半分に分ける。(一辺が10cmのフェルトに刺すので、それより短かめとした)
2. それぞれの銅線を縒って、銅線にはんだを馴染ませる。
3. はんだを付けた部分をフェルトに差し込む。(線がフェルトから出ないように慎重に差し込む。)
以上
電極作り5〜炙りステンレス網(改2)〜
新たにステンレス網(アク取り)を購入するために、別の100円ショップに行ったら、取っ手の棒がメッシュを囲うように繋がっているものを発見した。これであれば、取っ手が電線の替わりなりそうである。電線をメッシュ部分に取り付ける手間や、接続箇所の接触不良の心配が減るので、これも使ってみることにした。
材料
手順
1. 容器の中にステンレス網が収まった状態の時に、取っ手の棒が端子として容器の外へ取り出せるように、取っ手の棒をカットして、先端部分は曲げる。
2.メッシュ部分とその枠をガスコンロの火で炙る。全体的に飴色になれば良い。
棒の部分が剥き出しだと、ショートしたりして良くないので、容器の外に出る部分は、端子となる先端を除いてビニールテープ等を巻いた方が良いだろう。
念のため、電極作り3で作った電極と今回作った電極についての電線を含めた内部抵抗を測ってみた。どちらも1Ωより十分小さい値を示していたので、電気的特性にほとんど差はないとみている。
以上
実験結果
次の表は、各実験で測定した解放電圧(mV)が日数の経過でどう変化したかを示す。(日数0は作った直後を示す。)
日数 |
実験1 |
実験2 |
実験3 |
実験4 |
0 |
279 |
46 |
309 |
444 |
1 |
441 |
504 |
369 |
376 |
2 |
795 |
718 |
335 |
425 |
3 |
878 |
740 |
200 |
680 |
4 |
894 |
773 |
416 |
727 |
5 |
905 |
796 |
188 |
762 |
実験1での結果は、5日目で905mVに達し、かなりいい感じになってきた。電極作りの参考にした動画の結果では、830mVであったので、電圧ではそれを上回る結果がでた。
実験2、実験4では、実験1の結果には及んでいないが、700mVを越え、こちらもいい感じだ。ただ、実験4に関して、実験1の結果の再現ができていないので、もうしばらく電圧測定を続け、様子をみようと思う。
そして、実験3であるが、明らかに何かがおかしい。3日目まで、値がどんどん下がってしまったのだ。カソード電極は、お玉の形状をしているので、土と接触している部分が少ないから?と原因を推測し、電極が平らになるように、網目に十字の切れ込みを入れてみた。
9時間後、電圧を計測したが、結果は思わしくなかった。うーんと、原因について悩んでいたのだが、ふと気づくとアノード電極とカソード電極が接触していたのに気づいてしまった。電極作り5で作った電極を使っていたが、取っ手の棒が被覆されていないので、カソード電極をいじっているうちに、接触してしまったようだ。
痛恨のミスをしてしまったが、これも良い勉強である。
電極の接触が無いことを確認し、しばらく様子をみていると、電圧はいい感じで回復した。416mVを観察した。この値を4日目の値とした。
しかし5日目、またもや188mVに下がってしまった。電極の接触はない。電極の不具合だと思うが、原因究明するのも難しそうなので、ここまでを一区切りとした。次回、カソード電極を新しいものに交換して様子をみたいと思う。
続く。