微生物燃料電池のDIYやってみた〜その9〜


微生物燃料電池で小型冷却ファンを回すマイプロジェクトを実行中である。

前回は、電池のI-V特性を測定した結果、性能の良いセルを104個用意すれば小型冷却ファン(13mA/0.8V)を動作できそうだという予測がついた。しかし、104個はさすがに数が多いので、セルの性能をアップする事を課題に設定した。

性能アップの鍵⁉︎

そこで研究論文を調べた結果、ナノサイズの酸化鉄コロイド を発電に関わる細菌であるShewanella と共に加えると電流値が50倍以上になる結果を得たという論文があった。私が使用している堆積物の中に、このShewanellaがいるかどうかは不明であるが、いるという前提で、酸化鉄(α-Fe2O3 )ナノコロイドをアノード電極の周りに加えたいと思う。

で、酸化鉄(α-Fe2O3)と言えば、ラスコーの壁画で彩色に用いられたベンガラという赤色顔料と同じ成分であるというが、今回欲しいのは、粒子の大きさがナノサイズのものだ。岡山大学の研究室でナノサイズのベンガラを開発した記事を見たが、残念ながら気軽に購入できる代物ではなさそうであった。そこで天然の酸化鉄(α-Fe2O3)を採取することを調べてみた。

水田や流れのない小川の表面にできる茶褐色の被膜を見た事があるだろうか。被膜の成分には、α-Fe2O3が含まれるという報告もあるので、これがナノサイズであったら都合が良い話である。

という事で、先日さいたま市の市境にあるびん沼川のヘドロと被膜を含む水を採取しておいたので、これらを使って、微生物燃料電池を作ってみた。

アノード電極、カソード電極にグラファイトフェルトを使った電池を今回新たに8個(電池No.25~No.32)作成した。使った土は、びん沼川で採取したヘドロと被膜を含む水だ。写真のように、ペットボトルに採取した時点で、茶褐色の被膜は見えなくなっていた。

動作確認

これらの電池の解放電圧(mV)を1週間測定した。

日数 電池25 電池26 電池27 電池28 電池29 電池30 電池31 電池32
1 283 142 164 117 124 118 247 121
2 408 295 339 297 334 325 370 323
3 484 384 445 394 456 418 438 442
4 550 493 560 495 634 518 509 558
5 604 559 697 568 744 624 575 715
6 714 625 771 641 814 742 657 806
7 791 732 829 755 832 807 768 841

約一週間経過して、各電池とも開放電圧が732mVから841mVの値を示した。その後、No.27とNo.29のI-V特性を測定した。

No.27 12/7とNo.29 12/7の折れ線は、電池作成後、約1週間後のものだ。以前測定したNo.17の性能とあまり変わらないものであった。

そこで、電流を流すことで、微生物活性の向上を狙い、電池4つを直列にして10kΩ抵抗を接続することにした。一つ目(①)は、電池No.25からNo.28の組み合わせ、二つ目(②)はNo.29からNo.32の組み合わせ。4日経過して①および②の負荷電圧を測定すると730mV、1055mVであった。①に負荷電圧が随分小さくなっていたので電池毎の電圧を測定すると、なんとNo.26の出力電圧がマイナス325mVを示していた。理由はわからないが、意図しない事象になってしまった。この事象の理由は、後々検討したいと思う。

電池25 電池26 電池27 電池28 電池29 電池30 電池31 電池32
386 -325 347 316 325 166 293 267

その後、開放状態で放置すること10日。マイナスに振れていたNo.26の電圧は既にプラスに転じていた。再度No.27、No.29のI-V特性を測定したものが、No.27 12/24、No.29 12/24の折れ線である。I-V特性はNo.27 12/7とNo.29 12/7より良くなっていることがグラフから読み取れる。負荷を接続し電流を流すことは、性能向上の一因になったと思われる。

ただ、この性能は、アノードに炙ったステンレス網を使用したNo.7、No.8の結果と大差がないので、さらなる性能向上に挑戦したいと思う。

LEDランプの点灯

せっかくなので、今回作った微生物燃料電池を8個(4個直列x2組)使って、ろうそく風のLEDランプを点灯してみた。ろうそく風なので、明るさが揺らぎ、良い雰囲気が出る。ランプ内にはボタン型のニッケル水素電池が2つ直列になった、2.4V 80mAhの電池が入っていたが、この泥電池でもLEDランプを点灯することができた。負荷接続直後は、負荷電圧/電流が1.8V/1000μA程あったが、電流が少しづつ弱まってきて、一晩経ってみると、1.7V/200μAを切り、僅かな灯火となっていた。もう少し電池を足し、電流を増やしてあげれば、夜のライトアップに使える明るさになると期待している。

写真は負荷接続直後のランプの様子

参考:生きている電流発生菌Shewanellaの電気化学ー 外膜チトクローム c を経由する細胞外電子移動 ー